工場や建設現場・工事現場などでは、免許や技能講習、特別教育という言葉がよく聞かれます。実際に免許を取ったり、技能講習や特別教育を修了したりしている方もいるかと思われます。しかし、この免許や技能講習、特別教育とはどういったもので、何が違うのか疑問に持たれている方も多いのではないでしょうか?
そこで、今回は免許、技能講習、特別教育について、それぞれの特徴や違いなどを詳しく、そしてわかりやすく解説します!
(参考記事)工業系や技術系の資格の効果的な組み合わせとメリットを紹介!
↑↑こちらの関連記事↑↑では、工場勤務・製造業、建設現場などで役に立つ工業系や技術系の資格について、効果的な資格の組み合わせ方や組み合わせパターンをメリットとともに紹介しています。よろしければ、こちらも参考にして下さい!
労働安全衛生法における免許・技能講習・特別教育の特徴
免許、技能講習、特別教育とは、労働安全衛生法において定められた危険または有害な業務に従事する際、労働者が安全に業務を行い、労働災害や健康被害を防ぐために取得または実施が義務付けられているものです。万が一、労働安全衛生法に違反した場合は法令違反になり、罰則が課されることがあります(労働安全衛生法第59条・第61条、労働安全衛生法施行令第20条、労働安全衛生規則第36条)。
(参考)厚生労働省HP 免許・資格・技能講習・特別教育が必要な業務
技能講習、特別教育で実施される教育訓練の内容(科目、範囲、時間)は、労働安全衛生法に基づき詳細に定められています(労働安全衛生規則第39条、安全衛生特別教育規程 昭和47年労働省令第92号)。
また、ここでの労働安全衛生法において定められた危険または有害な業務について、一般的な例のいくつかを以下に紹介します(労働安全衛生法第59条第3項、労働安全衛生規則第36条)。
■高所での作業
屋根工事や建築現場の高所での作業など、転落や落下物の危険(リスク)が伴うもの
■有害物質への接触
化学薬品や有害ガスなどの特定の物質に長時間接触する作業など、健康被害の危険が伴うもの
■重機操作
クレーンやフォークリフトなどの重機の操作など、誤操作や転倒などの危険が伴うもの
■接触事故の可能性がある作業
工場内での機械操作や製造ラインでの作業など、機械との接触事故などの危険が伴うもの
■輸送作業
トラックや運搬車などの輸送作業など、交通事故や荷崩れなどの危険が伴うもの
労働安全衛生法(安衛法)の概要
労働安全衛生法(通称 : 安衛法)とは、労働者の安全と健康の確保や快適な職場環境の形成促進を目的とする労働者の安全衛生に関する法律です。労働安全衛生法には、労働災害を防止するために守らなければならない事項が定められています。万が一、労働安全衛生法に違反した場合は法令違反になり、罰則が課されることもあります。
■憲法
国の最高法規であり、憲法に反する法律や国家の行為は無効となる
■法律
憲法の次に効力をもち、国会両院の議決で成立するもの(労働安全衛生法)
■政令(施行令)
憲法及び法律を実施するために内閣が制定するもの(労働安全衛生法施行令)
■省令(施行規則)
各省大臣が担当する行政事務について、法律を施行するため、または法律・政令の委任に基づいて定めるもの(労働安全衛生規則、その他関連規則)
免許の特徴
免許とは、労働安全衛生法において定められた特に危険または有害な業務(就業制限業務)において、安全な業務を遂行するために必要な知識や適切な技能を持っていることを証明するための証明書=資格です。免許を取得するためには、特定の試験を受けて合格する必要があります。
免許試験の申込みや受験資格については、試験実施機関である(公財)安全衛生技術試験協会のホームページから確認することができます。
就業制限業務の概要
労働安全衛生法では、危険または有害な業務の内、危険・有害性が高く周囲を巻き込む大きな労働災害に結び付くおそれのある業務を就業制限業務として定めています。就業制限業務は、免許を受けた者または技能講習を修了した者など資格を有する者でなければその業務に従事することはできません(労働安全衛生法第第61条、労働安全衛生法施行令第20条)。
技能講習の特徴
技能講習とは、労働安全衛生法において定められた特に危険または有害な業務(就業制限業務)において、安全な業務を遂行するために必要な知識や特殊な技能を修得するための教育訓練を指します。労働者は、危険な業務や特殊な技術が必要な場合に技能講習を受ける必要があります。技能講習では、安全な作業方法や事故防止の知識、適切な機械や道具の取り扱い方などについて教育されます。技能講習を修了(試験に合格)した者には、講習を実施した登録教習機関から「技能講習修了証明書」が交付されます。
技能講習は、都道府県に登録されている教育機関(登録教習機関)で受講することができます。
■技能講習が必要となるケースの一例
- 特殊な機械や装置の操作やメンテナンス
- 高所作業やクレーン操作などの危険な作業
- 有害物質の取り扱いや保護具の使用などの有害業務
特別教育の特徴
特別教育とは、労働安全衛生法において定められた危険または有害な業務(就業制限業務以外の業務)において、安全な業務を遂行するために必要な知識を修得するための教育を指します。労働者は、危険な作業や特殊な技術が必要な場合に特別教育を受ける必要があります。特別教育を修了(試験は無し)した者には、教育を実施した教習機関から「修了証明書」が交付されます。
特別教育は、各教育機関などで受講することができます。また、特別教育は事業者(社内)でも実施することができます。
■特別教育の特徴
- 危険性のある作業または有害業務に従事する労働者への教育
- 労働活動を行う前に安全衛生に関する知識を持たせるための基本教育
- 特定の職種や業種に関連した安全衛生に関する教育
■特別教育の主な内容
- 作業の危険性やリスクについての情報提供
- 安全な作業や適切な装備の使用方法
- 緊急時の対応方法や事故防止策
- 労働者の健康管理やストレス管理に関する情報提供
特別教育の具体的な必要性(電気工事の例)
特別教育の具体的な必要性の一例として、電気工事士(国家資格)と高圧又は低圧電気取扱者(特別教育)があります。電気工事士とは、電気事業法で定められた電気工事を行うことができる人気の国家資格です。国家資格である電気工事士を持っていれば電気工事を行うことができますが、実際に電気工事の作業に従事するには労働安全衛生法で定められた危険な作業(充電部分の点検や修理、操作など)が避けられないため、高圧又は低圧電気取扱者の特別教育も修了する必要があります。なお、高圧又は低圧電気取扱者の特別教育を修了していても、電気工事士の資格がなければ電気工事を行うことはできません。
特別教育とは、資格の有無に関わらず、危険または有害な業務に従事する際の労働者の安全を確保する目的として実施される安全衛生教育です。万が一、特別教育を受講していないのにも関わらず作業に従事していることが発覚した場合は法令違反となり、罰則を受ける可能性があります。
■電気工事士(国家資格)
電気工事の欠陥による災害の発生を防止することを目的に、電気工事に関する必要な知識や適切な技能を持っていることを証明するもの(工事に関する知識と技術)
■電気取扱者(特別教育)
電気工事の作業をする際の災害防止ならびに安全を確保するために必要な知識を修得したもの(作業の安全衛生に関する知識)
【補足】これは一例であり、作業内容や業種によっては異なる場合があります。労働安全衛生法では、危険または有害な業務や作業に従事する労働者に対し、適切な特別教育を行うことが求められます。特別教育の情報や詳しく知りたい場合は、労働安全衛生法や関連する法令を参照するか、所属する企業(会社)や労働安全衛生法の関連機関にお問い合わせ下さい。
労働安全衛生法における免許・技能講習・特別教育の違い
労働安全衛生法における免許・技能講習・特別教育の違いは、業務や作業の有害性や危険性(リスク)によって必要な免許=資格や教育が定められており、免許>技能講習>特別教育の順番に応じて求められる専門性が高く、対応できる業務範囲が広くなります。そのため、同種の業務や作業については、上位の免許を取得している場合、下位の技能講習や特別教育は免除されます(その業務や作業に従事することができる)。また、技能講習を修了している場合、下位の特別教育は免除されるものの、上位の免許が必要な業務や作業については従事することができません。
さらに、免許・技能講習と特別教育の違いですが、免許の取得または技能講習を修了した者は、労働安全衛生法において定められた特に危険または有害な業務(就業制限業務)に従事することができます。特別教育を修了した者は、労働安全衛生法において定められた危険または有害な業務(就業制限業務以外の業務)に従事することができます。
その他にも、免許の取得または技能講習を修了した者は労働者の安全衛生(労働災害や健康被害の防止)に関する管理(監督・指揮)を行う作業主任者を担うことができます。しかし、特別教育を修了した者は作業主任者を担うことはできません(労働安全衛生法第14条、労働安全衛生法施行令第6条、労働安全衛生規則別表第1)。
(参考)厚生労働省HP 就業制限業務、作業主任者選任業務一覧表
そのため、免許・技能講習と特別教育の最も大きな違いは資格の有・無になります。技能講習は修了することで「技能講習修了証明書」という資格を取得できます。しかし、特別教育は修了することで「修了証明書」を取得できますが、これは資格という扱いにはなりません。
■免許・技能講習
- 就業制限業務に従事できる
- 作業主任者を担うことができる
■特別教育
- 就業制限業務以外の業務に従事できる
- 作業主任者を担うことができない
技能講習と特別教育の具体的な違い(足場組立の例)
技能講習、特別教育の具体的な違いの一例として、足場の組み立て作業(組立、解体、変更)があります。労働安全衛生法では、足場の組み立て作業において、足場からの転落や墜落による労働災害を防ぐ目的で特別教育または技能講習の実施が定められています。さらに、高さが5メートル以上の足場の組み立て作業を行う際は、作業者を管理(監督・指揮)するために足場組立作業主任者を選任するよう定められています。
労働安全衛生法では、全ての足場の組立作業(高さ5メートル以下も含む)に従事する者は、足場の特別教育を修了する必要があります。また、足場組立作業主任者を担う者は、足場の技能講習を修了する必要があります。そのため、特別教育と技能講習の具体的な違いは、技能講習の対象者が作業主任者として作業者の管理(監督・指揮)する者であるのに対し、特別教育の対象者は作業に直接従事する者となっている点が挙げられます。
■技能講習
作業主任者として作業者を管理する者
■特別教育
作業に直接従事する者
労働安全衛生法における免許・技能講習・特別教育の特徴のまとめ
今回は、労働安全衛生法における免許、技能講習、特別教育について、それぞれの特徴と違いなどを詳しく解説しました。
労働安全衛生法では、危険または有害な業務や作業に従事する労働者に対し、適切な安全衛生教育を行うことが求められます。法令の遵守はもちろん安全や健康を守るためにも、労働安全衛生法における免許、技能講習、特別教育の違いと必要性を正しく理解して、自分の担当する業務や作業に必要な資格および教育を漏れなく取得・修了するように適切な管理を徹底しましょう。