長年暮らした賃貸物件からの引っ越し(退去)で心配なのが退去費用です。賃貸物件からの引っ越しをする時、入居者には借りていたお部屋を元の状態(入居した時の状態)に戻して大家さん(管理会社を含む)に返す=原状回復義務というものがあります。
しかし、お部屋の壁や床の変色やキズ、水回りの汚れなど、これらの原状回復に必要な修繕や清掃の費用=退去費用は、自分(入居者、賃借人)と大家さん(貸し主、賃貸人、管理会社含む)のどちらがどれくらいの費用を負担しなければいけないのでしょうか?また、入居時に支払った敷金(入居時に大家さんに支払う預け金)は返ってくるのでしょうか?
実際、賃貸物件からの引っ越しで最も多いトラブルが退去費用に関するものです。そのトラブルの原因の多くが、入居時から元々あったキズや汚れを指摘されたり、思わぬ高額な退去費用を請求されたりするなどです。しかし、これらのトラブルのほとんどは入居時に大家さんと契約する「賃貸借契約書」の内容の確認不足や入退去時の物件の状態の確認不足、原状回復義務について正しい知識がないために起こってしまっています。
そこで、今回は賃貸物件からの引っ越しで退去費用に関するトラブルを避けるために、賃貸物件の原状回復義務と退去費用についての基本的な知識を予防策や対処方法とともにわかりやすく解説します。
さらに、退去費用で支払う必要があるものと無いもの、さらに退去費用を安く抑えるためのコツなども紹介します。その他にも、退去費用に関するトラブルを避けるために役立つ「入退去時のチェックリスト(原状回復確認表)」も紹介していますので、そちらもぜひ参考にして下さい!
Point!国土交通省-原状回復をめぐるトラブルとガイドライン
この記事は、国土交通省住宅局の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(以下、ガイドライン)」を参考にしています。
このガイドラインは、賃貸物件の退去時のトラブルを未然に防止する観点から、国土交通省住宅局が退去時の原状回復の考え方について一般的な基準を取りまとめたものです。ガイドラインには、原状回復に関する費用負担のあり方や負担の対象範囲、よくある質問(FAQ)、さらに過去の判例(事例)などがまとめられており、退去費用を考える時や退去費用(原状回復)に関するトラブルの回避にとても役立ちます。
このガイドラインは、国土交通省のホームページでも公表されていますので、賃貸物件の原状回復義務と退去費用について詳しく知りたい方は、そちらもご確認下さい。
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の位置づけ
本ガイドラインは、近時の裁判例や取引等の実務を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方等について、トラブルの未然防止の観点からあくまで現時点において妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとしてとりまとめたものである。
引用元 : 国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」より抜粋
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- 賃貸物件の原状回復義務について
- 賃貸物件の退去費用(原状回復)と敷金について
- 退去費用(原状回復)を安く抑える4つのコツ
- 原状回復に関するトラブルの予防策
- 原状回復に関するトラブルへの対処方法
- 入退去時のチェックリスト(原状回復確認表)の紹介
- この記事のまとめ
記事本編
賃貸物件の原状回復義務について
原状回復義務とは、賃貸物件からの退去時に入居者が借りていたお部屋を元の状態(入居した時の状態)に戻して大家さん(以下、管理会社も含む)に返す義務のことです。この原状回復に必要な修繕や清掃の費用=退去費用は、基本的には入居者が負担しなければいけません。
ここでポイントなのが、通常、この原状回復義務が生じるのは、入居者の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用によるお部屋の損耗・毀損(読み方 : きそん=ものを壊すこと)であり、普通に住んでいて生じたキズや汚れ(一般的な摩耗や劣化、経年変化など)は原状回復義務に含まれないということです。
つまり、原状回復義務によって借りていたお部屋のすべてのキズや汚れの修繕や清掃に必要な費用を、すべて入居者が負担しなければならないということではないことに注意する必要があります。
【図の補足】次の入居者を確保する目的で行う設備の交換・化粧直しなどのリフォームは、経年変化及び通常損耗の修繕であるため大家さんの負担となる。また、設備等を最新のものに取り替える(物件の価値を増大させるような修繕等)=グレードアップも大家さんの負担となる。
なお、原状回復義務については、入居する時に大家さんと契約する「賃貸借契約書(以下、契約書)」の中に、原状回復に関する条項や具体的な内容が含まれているのが一般的です。
ここで特に注意が必要なのは、賃貸借契約書の特約事項として、一般的な原状回復義務を超えた一定の修繕や清掃の義務を入居者に負わせることが可能であるという点です。そのため、今住んでいる賃貸物件の原状回復義務について気になる方は、一度、この賃貸借契約書の内容(特に原状回復に関する条項や特約事項)を確認することをおすすめします。
Point!善管注意義務とは?
賃借人(入居者)は社会通念上要求される程度の注意を払って賃貸物件を使用しなければならず(日常的なお手入れや清掃を行うこと)、これを賃借人の「善管注意義務」といいます。入居者が不注意などによって賃貸物件に対して通常の使用をした場合よりも大きな損耗・損傷等を生じさせた場合は、賃借人は善管注意義務に違反して損害を発生させたことになります。
■ 善管注意義務の違反の具体的な例
- 飲み物をこぼしたままにした床のシミやカビ
- 結露を放置したことによるシミやカビ
- 台所の汚れ(手入れが悪く著しい汚れ)
- タバコのヤニや臭い
- 壁や床の落書き など
賃貸物件の退去費用(原状回復)と敷金について
賃貸物件の退去費用とは、入居者が借りていたお部屋から退去する時(引っ越しをする時)に借りていたお部屋を元の状態に戻す(入居した時の状態に戻す)ために必要な修繕や清掃を行うための費用=原状回復費用です。
退去費用は、通常、入居時に大家さんに支払った敷金や保証金から差し引かれます。そのため、退去費用が少なければ敷金や保証金との差額(余り)が返還され、多ければその分(超過した分)を追加で請求されます。
通常の住み方や使い方をしている上で発生する経年変化や通常損耗については、原状回復を行う必要はありません=支払う必要がありません。しかし、故意・過失や善管注意義務違反、通常の使い方でない損耗については、原状回復の対象=支払う必要があるものになります。ここでは、退去費用で支払う必要があるものと無いものを具体的に詳しく説明します。
退去費用(原状回復)で支払わなくていいもの
物件・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年変化)や通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)など、入居者の通常の使用により生ずる損耗は原状回復義務に含まれません。
■ 原状回復で支払わなくていいもの一例
- 壁紙の変色(日照などの自然現象)
- 壁に貼ったポスターや絵画の跡
- 壁の画鋲、ピンの穴(下地ボードの張替えが不要な程度)
- 家具や家電による床のへこみ
- テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の電気ヤケ
- 備付エアコンの設置による壁のビス穴、跡
- 備付エアコンの修理や交換 など
退去費用(原状回復)で支払う必要があるもの
故意・過失や善管注意義務違反(手入れ不足、放置)、通常の使用を超える使用による損耗など、入居者の通常の使用により生ずる損耗以外の損耗は原状回復義務に含まれます。
■ 原状回復で支払う必要があるもの一例
- 庭の雑草処理
- 雨の吹き込みによる床や壁の色落ち
- 結露の放置によるカビやシミ
- エアコンの漏水による床の傷み
- 水回りの水垢やカビ
- カーペットに飲み物をこぼしたシミ、カビ
- タバコのヤニ、臭い
- 台所の著しい油汚れ など
退去費用(原状回復)を安く抑える4つのコツ
退去費用(原状回復)を抑えるコツは、やはり普段からこまめにお手入れや清掃を行い、お部屋や設備をきれいに使用することです。壁や穴や床のキズなどの簡単な修繕であれば、自分で行うことも退去費用を抑えるコツです。その他にも、お部屋や設備を使っていて気になる汚れやキズ、設備の不調などを発見した場合は、放置せずにすぐに大家さんへ報告・相談するようにしましょう。
また、退去時には自分でお部屋の清掃を行い、きれいな状態にして大家さんに返すことも大切です。結局、お部屋の状態を見て退去費用を考えるのは大家さんです。そのため、丁寧で誠実な対応で大家さんの心証を良くしておくと、退去費用が安くなる可能性や引き下げ交渉をした際に成功する確率も上がります。
■ 退去費用を安く抑える4つのコツ
- お部屋や設備をきれいに使用する
- 普段からこまめにお手入れや清掃を行う
- 簡単な修繕は自分で行う
- 気になる部分はすぐに大家さんへ相談する
原状回復に関するトラブルの予防策
原状回復義務でポイントとなるのが、お部屋のキズや汚れが「経年劣化や通常損耗によるものか?」もしくは「原状回復義務の範囲にあたるものか?」です。この判断が曖昧なために、入居時から元々あったキズや汚れを指摘されたり、思わぬ高額な退去費用を請求されたりするなどのトラブルが生じてしまいます。
しかし、これらのトラブルのほとんどは入居時に大家さんと契約する賃貸借契約書の確認不足や入退去時の物件の状態の確認不足、原状回復義務について正しい知識がないために起こってしまっています。原状回復をめぐるトラブルを未然に防ぐためには、賃貸借契約書はもちろん入退去時の物件の状態をよく確認する必要があります。
この記事の後に、入退去時の物件の状態を確認するのに役立つ「入退去時のチェックリスト(原状回復確認表)」を紹介していますので、そちらを参考にお部屋の状態をぜひチェックしてみて下さい。それと合わせて、入居前からあった床や壁などの汚れやキズを物件の平面図に記入したり、物件の状況を写真に撮っておくなどして退去時の証明として残しておき、トラブルが生じた場合に提示することで不当な退去費用の請求やトラブルを最小限で回避することができます。また、退去時の原状回復義務や費用負担を考えるとき、ガイドラインの活用も役立ちます。
■ 原状回復義務に関するトラブルの予防策
- 賃貸借契約書(特約事項)の確認
- 入退去時の物件の状態の確認
- ガイドラインの活用(原状回復の知識)
原状回復に関するトラブルへの対処方法
入居前からあった汚れやキズを指摘されたり清掃費として高額な金額を請求されたりして、敷金が返ってこなかったり退去費用を請求されたりして納得がいかない場合は、放置や泣き寝入りせず、毅然とした姿勢での応対が重要です。また、感情的にならず冷静に対応する必要があります。
退去費用(原状回復)に関する問題をはじめ、賃貸物件をめぐるトラブルが発生した場合の解決方法は、大家さん(実態的には、管理業者が間に立って行うことが多い)と入居者(自分)との当事者間による相対交渉で図られることになりますが、相対交渉によって解決しない場合は、最終的には裁判(少額訴訟手続、裁判外紛争処理など)により決着を図ることになります。しかし、費用や労力・時間などの問題から、なかなか裁判にまで踏み切るケースは必ずしも多くないのが実状であると考えられます。
そのため、退去費用で納得がいかない問題が生じたら、まずは地方公共団体の相談窓口や消費生活センターなどの行政機関へ相談しながら、大家さんへ請求内容の根拠の提示を求めたり、退去費用の引き下げ交渉を行うようにしましょう。
■ 退去費用に関するトラブルへの対処方法
- 行政機関への相談
- 大家さんとの協議・交渉
- 裁判(少額訴訟手続、裁判外紛争処理)
行政機関への相談の概要
賃貸住宅にかかる相談・苦情は、地方公共団体の相談窓口や消費生活センターなどの行政機関で受け付けてもらえます。トラブル防止に向けた啓発、紛争解決への助言・あっせん、紛争解決制度等の情報提供などを行っているため、行政機関への相談も退去費用に関するトラブル解決の有効な方法と考えられます。
少額訴訟手続の概要
少額訴訟手続は、民事訴訟のうち少額の金銭の支払をめぐるトラブルを、少ない費用で迅速に解決することを目的とした訴訟手続です。
裁判外紛争処理の概要
裁判外紛争処理は、仲裁(第三者の判断に従って解決するもの)、調停・あっせん(第三者からのアドバイスを参考に歩み寄りを期待するもの)など、トラブルを裁判によらずに公正中立な第三者が当事者の間に入って、当事者の話し合いによって解決することを目的とした手続です。
入退去時のチェックリスト(原状回復確認表)の紹介
原状回復をめぐるトラブルを未然に防ぐためには、賃貸借契約書はもちろん入退去時の物件の状態をよく確認する必要があります。ここでは、入退去時の物件の状態を確認するのに役立つ「入退去時のチェックリスト(原状回復確認表)」を紹介しますのでぜひ参考にして下さい。
また、入居前からあった床や壁などの汚れやキズを物件の平面図に記入したり、物件の状況を写真に撮っておくなどして退去時の証明として残しておき、トラブルが生じた場合に提示することで不当な退去費用の請求やトラブルを最小限で回避することができます。
この記事のまとめ
今回は賃貸物件からの引っ越しで退去費用に関するトラブルを避けるために、国土交通省住宅局の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」をもとに、賃貸物件の原状回復義務と退去費用についての基本的な知識を予防策や対処方法とともに解説しました。
退去費用(原状回復)に関するトラブルを回避したり、退去費用を少しでも安く抑えたいのであれば、賃貸借契約の特約事項や入退去時の物件の状態の確認はもちろん、日頃からお部屋を大切にして暮らすことがもっとも大切です。また、退去費用(原状回復)に関する最低限の知識を蓄えることも必要です。結局、お部屋の状態を見て退去費用を考えるのは大家さんです。そのため、丁寧で誠実な対応を心掛けることで日頃から大家さんの心証を良くしておくことも大切です。
ほんの少しの手間や交渉で退去費用を大きく抑えることができる場合も多いため、少しでも疑問や納得がいかないことがあれば放置や泣き寝入りせず、ガイドラインを活用するなどして手間を惜しまず積極的に交渉・相談して、しっかりと対策・対応するようにしましょう!